セルフケア(self care)とは一般的には自分自身で心や身体についてケア(管理や手入れなど)を行うことを言います。ここでは特に「働く人のメンタルヘルス(心の健康)において良くない状態であればそれを改善し、良い状態であればそれを保ちながら、さらに良くするためにケアすること」を指します。広義では、「生き方・働き方を含めて自分自身を大切にすること」と言えます。
様々なストレスにより心身の健康状態が悪化する労働者の増加は、近年、大きな社会問題となっています。その改善のために国や企業は様々な施策を実施していますが、そもそもメンタルヘルス不調を未然に防ぐためには、まずは働く人一人ひとりが自分に合ったセルフケアを積極的に実践する必要があります。厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年策定、平成27年改正)においても、その重要性が示されています。
働く人が主体的にセルフケアに取り組むことで、仕事を含めた日常生活において過度なストレスから自分自身を守り、健康的な生活を維持・向上させることができます。加えて、毎日活き活き働くことが良いパフォーマンスを生み出し、その結果、組織の生産性が向上し、持続可能な発展へとつながっていきます。
働く人のメンタルヘルスを阻害するものがストレスです。セルフケアに取り組むためには、まずストレスについてよく知っておくとよいでしょう。
ストレスには、「ストレス要因(ストレッサー)」と「ストレス反応」の2つの意味があり、その関係は柔らかなボールに例えられます。
丸いボールを人の心の健康な状態だとして、図のようにボールにある一定の力を加えると凹みます。加わる力が「ストレス要因(ストレッサー)」であり、凹んだ状態が「ストレス反応」です。
凹みの大きさがストレスの大きさを表しているので、凹んだ状態が長く続いていたり、加わる力がなくなった後も凹みが元に戻らないような状態になっていたりすれば、それは病気とみなされることになります。
ストレス反応は、以下の3つの側面で表出します。
1)心理面 <例>
不安感やイライラ感、緊張感がある。
悲しみ、憂うつ感がある。
すぐに涙が出る。怒りっぽくなる。
無力感に襲われる。やる気が出ない等。
2)身体面 <例>
食欲がなくなる。吐き気がする。食べ過ぎる。
寝つきが悪くなる。朝早く目が覚める。
動悸がする。血圧が上がる。
頭痛がする。めまいがする等。
3)行動面 <例>
消極的になる。周囲との交流を避けるようになる。
もの忘れがひどくなる。ミスが増える。
身だしなみがだらしなくなる。
落ち着きがなくなる等。
上記のストレス反応のうち、心理面や身体面は自分しか気づけないかもしれませんが、行動面については周囲が気づくことも可能です。自分自身のストレス反応は心や身体からのSOSと捉えて、早めにセルフケアすることが望まれます。
ただし、ストレス反応を便宜上3つの側面に分けて表現していますが、実際には様々なストレス反応が相互に影響し合っていることが多く、個別の症状・状態を切り離して対処することが望ましいわけではないことは知っておきましょう。
日々の生活や仕事においては大小様々なストレス要因による力があちこちから加わります。心の健康を維持するには、その凹みを跳ね返す力、回復する力(レジリエンス)が必要となります。日常、様々なセルフケアを意識して行うことは、これらの力を向上させていくことにつながります。セルフケアとはストレスをうまくマネジメントすることなのです。
ストレスをマネジメントする方法は大きく次の2つのコーピングに分類されます。コーピングとはストレス要因を軽減したり、ストレス反応を和らげたりするための様々な行動や考え方、ストレスへの対処法のことです。
1)情動フォーカス・コーピング:
ストレス要因から一時的に距離をとり、情動(感情・気分)面にフォーカスして、気分転換を図ったり、表出しているストレス反応を和らげたりすることを目的としたコーピング
2)問題フォーカス・コーピング:
問題(ストレス要因)にフォーカスして、考え方を変えたり行動を起こしたりすることで、ストレス要因からの影響を最小限に抑えることを目的としたコーピング
誰にもストレスと感じるものはあり、多かれ少なかれストレス反応が出ることは自然なことです。それらのストレス要因やストレス反応に対して、コーピングがうまくいかないとストレスからくる各種疾患(病気)になってしまいますが、コーピングがうまくいくと健康維持・向上につながります。