者成長への近道ともいえる企業合併は、同時にそれまでになかった課題を生じさせることがあります。
今回は、大きく下記の3つの問題が浮き彫りとなっていました。
(1)合併会社間で大きく異なっていた人材タイプ
存続会社は、身体的負担の大きい屋外作業が業務の中心で、採用難のため平均年齢は40歳台後半と高年齢化していました。一方の消滅会社は、比較的高学歴の公的資格を有する技術者集団で、30歳台の若手から中堅の人材が中心となっていました。
(2)固定的かつ高止まりしていた人件費
存続会社では、業務特性による人材採用難から、全般的に世間相場と比較して給与水準が高く、売上高人件費比率が高くなっていました。一方、消滅会社は、これまで賃金管理がルール化されておらず、公務員給与を参考に給与水準を決定していたため、総じて平均年収が同業他社に比べて、高い水準となっていました。
(3)公共案件縮小による収益の減少
売上の大半を占める官公庁物件の発注量の減少と発注単価の低下によって、存続および消滅会社のいずれも売上高・粗利益が毎年減少し続けていました。
問題点を細かく精査した上で、主に2つの側面からの支援方法を考えました。
(1)会社の方針・目標の明示と個々人の職務への落としこみ
異なる会社が合併したこのときを第二創業期のスタートと位置づけ、明確でなかった「会社方針」「経営目標」を一からつくり上げました。また、それらを実現するために求められる人物像とそれに至るキャリアパスを明示すると同時に、貢献度に対する評価と報酬の仕組みを整備することで、個人の行動指針を明確にしながらモチベーションを高く維持して働くことができる流れをつくりました。
(2)管理職のマネジメントに対する責任意識の向上
これまでの管理職は個人プレーヤーに傾きがちになっていました。そのため「業務管理や部下育成を通じた組織目標の達成」こそが、管理職の最も重要な役割・責任であることの認識を持ってもらうことに注力しました。さらに、管理職と経営陣のコミュニケーションの機会を増やし、業績数値に基づいた現状に対する危機感を共有してもらいました。
■具体的な取り組み
制度面から下記の取り組みを行いました。
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(1)人事制度構築
(2)人事制度の導入・運用定着化
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(1)人事制度構築
◎社内等級制度の策定
管理職には「役割等級」を導入し、組織業績、業務管理や部下の育成などについて、求められる成果・行動をマネジャーの役割・責任として定義しました。非役職者(監督職、担当職)には「職能資格等級」を改正導入し、中長期的な職務遂行能力の向上を目的に、職種ごとの専門性を加味しながら能力要件を定義しました。
◎人事評価制度
管理職には、役割等級ごとの役割定義に基づき、組織目標の達成度、マネジャー役割(行動)の遂行度を評価する「役割評価」の仕組みを導入しました。また、管理職の「役割評価」の内の組織目標の達成度は、目標管理制度のしくみにより評価することにしました。非役職者(監督職、担当職)には、職能資格等級ごとの能力要件に基づき、能力の習熟度合いを評価する「能力評価」のしくみを導入しました。
◎給与制度
基本給は職能給と役割給(管理職のみ)とし、能力評価の結果を職能給の年次改定(昇給)へ、役割評価の結果を役割給の年次改定(昇給、降給)へ反映するしくみとしました。賞与は、原資を会社業績(売上、利益)に応じて変動するしくみ(業績連動型賞与)としました。賞与の個別配分方法は、業績貢献度を公正に反映するため、成果評価結果と等級を反映するしくみ(ポイント方式)としました。
(2)人事制度の導入・運用定着化
上記の人事制度を導入後も継続的に、制度運用実務のサポート、制度メンテンナンスをご依頼いただいています。
この会社は、総務人事担当者が不在のため、当社が毎年、給与改定(年1回)、評価実施(年2回)、賞与(年2回)の運用実務を支援しています。また、業況や組織人員など経営環境の変化に合わせて、社内等級制度の等級定義や人事評価の評価内容を改正しています。